古びた時計屋の奥、ほこりをかぶった棚の上に、ひときわ異彩を放つ懐中時計があった。
金色の装飾は少しくすんでいるのに、なぜか目を離せない。
「やっと来たね」
静かな店内に、かすかな声が響く。
周りを見渡しても誰もいない。
けれど、その声は確かに――その懐中時計から聞こえていた。
「ぼくはアンティーク・ナビゲーター。時間の中を旅する案内人さ」
針が、コチ、コチ、とゆっくり動く。
その音はただの時の音ではなく、どこか遠くの記憶を呼び覚ますようだった。
「君はどの時間へ行きたい?」
問いかけは優しく、しかしどこか試されているようでもある。
過去か、未来か、それとも――まだ名前のついていない時間か。
ふと触れた瞬間、世界が静かに歪む。
見慣れた景色がほどけ、色が滲み、やがてまったく違う光景へと変わっていく。
遠い昔の街並み。
まだ知らない未来の空。
そして、自分の記憶の奥に沈んでいた、あの一瞬。
「時間はね、ただ流れるだけじゃない」
アンティーク・ナビゲーターの声が、耳元でそっと響く。
「選ばれることで、初めて意味を持つんだ」
その言葉に、なぜか胸が少しだけ締めつけられる。
どれだけの時間を、なんとなく通り過ぎてきたのだろう。
針がひときわ大きく進む。
「さあ、次はどこへ行こうか」
懐中時計は静かに輝いている。
ただの古い道具ではなく、時間という名の海を渡るための、小さな羅針盤として。
※この記事には広告(アフィリエイトリンク)が含まれています
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
楽天市場
よろしければ、
そっとのぞいてみてください。

0 件のコメント:
コメントを投稿