ある日、机の上にぽつんと置かれていた一本のカッター。
よく見ると、なんだか様子がおかしい。
「やあ」
え?今しゃべった?
声のした方を見ると、カッターがほんの少しだけこちらを向いている。
「ぼく、カッター君っていうんだ」
名前、あるんだ。しかも自分で名乗るタイプ。
よく見ると、刃の部分がちょっとだけキラッとしていて、どこか得意げだ。
「切るのは得意だけどさ、できれば優しく使ってほしいんだよね」
なんだろう、この妙な愛嬌。
道具のはずなのに、妙に気を遣わせてくる。
段ボールを切るときも、紙を切るときも、
「おっとっと、そこ慎重にね」なんて声が聞こえてきそうで、
いつもより少しだけ丁寧に手を動かしてしまう。
「ありがとう。きれいに切れたね」
気づけば、カッター君に褒められている。
ただ作業しているだけなのに、なぜかちょっと嬉しい。
不思議だなと思う。
ただのカッターなのに、
そこに「ちょっとした心」があるだけで、こんなにも世界が柔らかくなるなんて。
「ねえ、今日も何か切る?」
机の上で、カッター君が静かに待っている。
少しだけ変で、でも確かにかわいい存在として。
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